【実食レポ】一風堂「ジビエラーメン」が示したのは、代用品としてのジビエではなくラーメンの「再設計」だった

1月17日、18日に都内で開催された一風堂×九州ジビエコンソーシアムのコラボによるジビエラーメンのイベントを取材した。まずは味についてのインプレッションをお届けしたい。ただし、筆者はラーメンは好きだが素人であるので、表現や言い回しにラーメンらしからぬところがあるところはご容赦いただきたい。

ただただ、旨い。

九州ジビエコンソーシムが提供するイノシシ、鹿を使い、一風堂が40年のノウハウを惜しみなく注ぎ込んで開発したジビエラーメンは、理屈ぬきに「旨い」。この一言に尽きる

まずスープの味が深く、濃い。

イノシシのげんこつを数時間煮込み、さらにイノシシ、鹿のアバラなどの肉の付いた部位を入れてさらに1、2時間煮込んで仕上げたスープに、一風堂の塩ダレに加えて、九州ジビエコンソーシアムが半年かけて試作した「肉醤」(イノシシ醤、鹿醤)で味を整えたという。

もちろん通常の一風堂のラーメンも美味しいわけだが、それよりも奥行きと深さを感じさせる味わいだ。「味が濃い」と書いたが、塩味が強いとか、飽きが来るような濃さではない。しっかりとした手応えを感じさせる濃さで、最初から最後まで楽しめる味と香りを備えていた。

麺もまた素晴らしい。すするとスープを適度に持ち上げ、麺との一体感を生み出す。聞けば通常の麺よりも細い番手を使用し、やや柔らかく仕上げているという。「バリカタでは絶対に合わなかった」と一風堂を経営する株式会社力の源ホールディングス代表取締役兼CEOの山根智之氏は語る。ジビエスープに合わせた絶妙のアジャストと言わざるを得ない。麺とスープを楽しむというラーメンの基本、ラーメンとはこういう食べ物だったことを改めて教えてくれるインパクトがあった。

丼真ん中(たまごの上)がイノシシ肩ロースの低温調理、その左がロースのロースト、その上が鹿外モモの低温調理

トッピングも凝っている。

まず、イノシシの肩ロースと鹿外モモの低温調理、イノシシロースのローストという3種のチャーシュー。しっかりとした塩味を付けており、丼の中で埋没せず、しかし浮いてもいない。ネギとメンマは福岡県糸島市産のものを採用し、ジビエの味わいに負けないよう、ネギは厚めの小口切りにしている。桜のウッドチップで燻製にした半熟たまごも野趣を感じさせジビエとの相性も良い。

そして特筆すべきはイノシシ粗挽きを使ったワンタンだ。おそらくスネやネックなどの味の濃い部位を使用したのだろう。参加者の多くが「一番ジビエらしさを感じた」と話すように、自然の荒々しさを感じさせる味と歯ごたえ。これにマダガスカル産ワイルドペッパーを効かせており、食べ進める中での鮮烈なアクセントになっている。

とにかく最初から最後まで楽しめるジビエラーメンだった。

ジビエの可能性と将来を感じさせる「新しさ」

大げさかもしれないが、「私たちはまだ、ジビエの本当の『新しさ』に気付いていなかったのかもしれない」というのが率直な感想だ。

今回のジビエラーメンの開発は「基本的にゼロベースで取り組んだ」と先述の山根氏は語る。「チャーシューでジビエを使う」とか「豚骨スープにイノシシの骨を使う」というありがちなアプローチや、お仕着せでジビエを使うという姿勢ではない。

「ラーメンの味は、塩味、旨味、脂を基本としていますが、自由度が極めて高い料理です。創業者の河原(河原成美氏)は『ラーメンは小宇宙だ』と言うほど。今回も、『今あるラーメンにどうジビエを使うか』ではなく、『ジビエでラーメンを作る』という方向性だけはぶらさずに、ゼロからラーメンを組み立てました」(山根氏)

その中では、一風堂であることにもこだわりはなかったそうだ。もちろん40年のナレッジ、ノウハウを注ぎ込んでいる以上、一風堂のカラーは出るが、それは目的ではないという。あくまでも、ラーメンという枠のなかでジビエをどう表現するかに視点があった。

その結果生まれたジビエラーメンは、間違いなく「一風堂のラーメン」でありながら、同時にまぎれもない「野趣あふれるジビエ料理」であり、そのどちらでもない「新しい食体験」になっている。一風堂という40年の歴史を持つ強固な「枠組み(ノウハウ)」があり、その枠組みがジビエという素材のために一度解体され、再構築されている。

優れた「合作」とはこういうことだろう。芸術作品や音楽、マンガや小説など、「合作」は多いが、優れた合作は関わった両者の「らしさ」がきちんとありながらも、まったく違う新しい「何か」になっている。それと同じだ。

ラーメンデータバンク、大崎氏

17日の最初の回には、ラーメンデータバンクの大崎裕史氏、“ラーメン女子”の森本聡子氏が参加しており、ともに絶賛だった。大崎氏は8年ほど前に「ジビエラーメン」の開発に試食で携わったことがあるがタイミング悪く、コロナ禍に入り、中断せざるを得なかった。

「当時もジビエの可能性を感じていました。鹿は単体よりも他の食材を組み合わせることで旨味が増幅するという研究結果も出ていました。今回のジビエラーメンはイノシシと併用することで旨味が爆発していましたね。改めて可能性と将来性を感じさせるものだったと思います。今日参加した皆さんはその証人になってくれるでしょう。今後のジビエラーメンに大いに期待したいと思います」(大崎氏)

昔、感じていた可能性に加えて、今回はさらに将来性も感じたという、その差はどこにあるのか。それはおそらく、ジビエを「豚や牛の代用品」として扱うか、それとも「その素材でなければ作れない味」として設計し直すかの違いではないだろうか。ジビエが流行る今、巷間さまざまなジビエ料理にお目にかかれるようになったが、その実、本当に美味しいジビエ料理に出会えることは稀だ。誤解を恐れずにいえば、ジビエの本当の価値、新しさに、我々はまだ気付いていないのかもしれない。

ラーメン女子の森本氏は「このラーメンは一風堂のラーメンの延長線上にあるものだけど、その先に新しい線を引いたものだと言えると思います」と話している。ジビエの価値とは、そんな「新しい線」を引くことにあるのではないだろうか。

ラーメン女子、森本氏。

今回のジビエラーメンは単なる新商品ではないだろう。ジビエという素材が持つ「めんどくささ」や「個性」を、既存の料理の型に押し込めるのではなく、その個性のために料理の設計図を書き直せば、これほどまでに化けるのだという証明だと言える。この一杯に、ジビエ普及のヒントを見出すことができるのではないだろうか。

※その他のジビエ料理、今回の取り組みの背景や意義については後日別途レポートする。

※ジビエラーメンは、3月13~15日に福岡で開催される「第3回 九州ジビエフェスト 2026」でもお披露目される。https://gibiertracks.com/kyushugibierfest-2026/

イベントの参加者はラーメンファンが中心。農林水産省、山下雄平副大臣も来場(右から2番目)し、参加者と一緒にラーメンをすすった。