東京・お台場で開催された「Tokyo Tokyo Delicious Museum」(2026年5月14日~16日、以下TTDM)に、ジビエ関連の出店があると聞いて取材に行ってきた。
出店していたのは長野県の「オーベルジュ・エスポワール」と、山梨県に拠点を置く「株式会社イェーガー」の2事業者。都内の人気店が中心のイベントに地方のジビエ事業者が出たのはなぜか。会場で話を聞いた。
TTDMってどんなイベント?

TTDMは2022年に初開催、今年で5回目になる。東京都が「世界一の美食都市」の実現を目指す取り組みとして位置づけており、インバウンド戦略でもあるが、国内での美食都市としての地位確立という狙いも大きい。都内の人気店が軒を連ね、東京の美食の魅力を発信するという趣向だ。
出店数は計46店舗、飲食スペースは1500席。来場者は金曜で約3万人、土日は各5~6万人という規模。出店だけでなく、今年は世界No.1フーディーの浜田岳文氏のステージショーや、イタリアンのトップ・落合務シェフの実演ショーなどが注目を集めた。
東京の有名店が並ぶなかで、地方事業者によるジビエが登場したのはなぜか。関係者によると、昨今のジビエ人気の高まりを受けて、「東京もジビエ人気の震源地にしたい」「ジビエという新しい食の魅力の発信地にしたい」という狙いがあったという。「ジビエを食べるなら東京で」というわけだ。
実は2年前の開催からジビエを紹介するブースはあったが、食べさせる出店はなかった。今年、実際に調理・提供する形での参加が実現したのは、それなりに意味のあることではないか。
インバウンドへの意識もある。都内のジビエ有名店のシェフが「マグロや和牛は海外でも食べられるが、日本産ジビエは日本に来ないと食べられない食材として価値が高まっている」と話したことがある。東京都にとって、ジビエはもはやインバウンド戦略の「主要食材のひとつ」として外せない存在になりつつあるのかもしれない。
オーベルジュ・エスポワール――ブドウの枝で熊の串焼き
飲食提供を担ったのが、長野県のオーベルジュ・エスポワールだ。オーナーシェフの藤木徳彦氏は日本ジビエ振興協会の代表理事も務めており、今回の出店はジビエPRが主な目的だったという。本来は協会として出店したかったそうだが、来場者に分かりにくいということでオーベルジュ・エスポワールとしての参加になった。
メニューは4種類。鹿・イノシシ・熊をシャルキュトリなどで楽しむ構成で、やはり注目を集めたのは熊だった。

「信州ジビエの盛り合わせ」に入っているブロシェット(串焼き)が信州産ツキノワグマで、串にはメルロー(ワイン用ブドウ)の枝を使っている。食べてみると、「何にも似ていない、これぞ熊」としか表現できない味に、ブドウの枝のほのかな香りがふわっと重なる。鹿はロースト、イノシシは煮込みで、それぞれジビエらしい力強い味を出していた。
会場には移動式解体処理車、通称「ジビエカー」も展示していた。食べさせるだけでなく、「安心・安全」の側面も伝えようという姿勢が出ていた。

株式会社イェーガー――プロを驚かせた鹿肉ジャーキー
もうひとつは、物販エリアに出店していた株式会社イェーガーだ。山梨県の南アルプス市・甲州市・南部町に拠点を置き、地元の猟師・シェフ・農家とチームを組んで、解体処理からジビエ生産・加工品製造まで一貫して手がけている。
代表の富永智一氏は都内でクリニックを開業する医師でもあり、衛生管理への意識が高い。人間の食用には遺伝子検査を実施した肉を使用しているというのはなかなかユニークで、鹿肉の安全性を科学的に証明しようというアプローチだ(もちろん生食を推奨するものではない)。深層海洋水を用いた牡蠣がノロウイルスフリーを実現し、外資系ホテルへの採用につながったエピソードを思い出させるもので、今後、ジビエの安全性を証明する手段として注目される可能性がある。

創業時はペットフードが中心だったが、皮革利用・食用と活動を広げ、現在は加工品だけでも13品目を展開。レトルトの「クーマカレー」(熊肉)、「ジビエ麻婆」(鹿肉)、「ジビエガパオ」(イノシシ肉)など、すべて自社生産というのも驚きだ。飲食メインストリートから離れたエリアにもかかわらず、非常に多くの人が足を止めていた。
そのなかで特に反応が大きかったのが「鹿肉ジャーキー」(レモン/ジュニパーベリー)だった。試食した料理人たちが例外なく驚いていて、筆者が帯同していたあるシェフは「自分も実現したかったができなかった味」「どうやればこれができるのか」と首をかしげることしきりだった。レモンやジュニパーベリーの風味がしっかりと肉に入り込んでいて、通常のソミュール液に漬けただけでは実現できない味だ。製法は明かされていないが、業界関係者にとってはかなり気になる一品ではなかろうか。

東京とジビエ、これから
地方では、昔から食べてきた人ほど鹿肉・イノシシ肉を敬遠する傾向があり、「東京で人気だから美味しいはず」という逆輸入的な広まり方がジビエの定番パターンだった。
しかし、最近は、地方での消費が確かに増えている印象がある。都市から地方へという一方通行だったものが、少しずつ変わってきているのかもしれない。
そのなかで東京のジビエも立ち位置の見直しを迫られていると言えるだろう。地方のジビエがより地方色を強めていくとすれば、東京・都市部はインバウンドも含めた出口としての機能を強化していくのかもしれないし、より新しいジビエの可能性を求めて先鋭化するかもしれない。ジビエのフェーズが少しずつ変わっていると感じられる取材だった。