プロバスケ選手がジビエに挑戦――橋本選手に聞く「アスリート×ジビエ」の可能性

B.LEAGUE ONE所属のプロバスケチーム「静岡ベルテックス」の橋本尚明選手が引退とともに「ジビエに挑戦」を宣言し、話題となった。ジビエ事業をスタートするにあたり、7月16日からはクラウンドファンディングを開始する。開始前にはインスタライブを配信し、視聴するファンに挑戦への応援を呼びかけた。

今、「アスリート×ジビエ」は注目領域のひとつだ。これまでフィットネスジャパンなどの展示会で紹介されたこともあり、筋トレガチ勢、トレーニー専用を謳うジビエ製品や、アスリートへの提供に取り組む施設、事業者も見られるようになっている。

しかし、アスリート自身がジビエに取り組むというのは珍しい。どんな思いで、どんな事業展開を目指すのか、お話を伺った。

オンラインでインタビューに答える橋本さん

直感で「これだ!」と感じたジビエ

橋本さんが「ジビエに挑戦」するに至ったきっかけは、食肉卸・加工を手掛ける「肉のモヅメ」の茂津目悠記社長に教えてもらったことだったという。肉のモヅメはベルテックスのサポーターでもあり、選手たちとも盛んに交流している。当時橋本さんはケガで欠場しており、復帰に向けた調整のため食事にも気をつけていたところだった。

「茂津目さんとはよく一緒にご飯を食べるのですが、肉を焼くのがすごく上手で、自分で焼くよりも30倍は美味しい(笑)。ケガに良い肉はないですかと聞いたら、『じゃあ鹿肉がいいよ』と教えてくれたんです。高タンパクで低脂質。体を養うのにもいい。しかも美味しい。これは、アスリートにもってこいの食材、スペシャルフードじゃないかと思いましたね。健康志向の人も増えています。もっと必要としている人がいっぱいいるだろうと思いました」

 選手としても「直感で動くタイプ」だったが、今回も直感で「これだ」と感じたのだという。セカンドキャリアに向けたプランはいろいろあったがジビエに絞り、1年半前から鹿のジャーキーとソーセージの試作を開始し、先ごろようやく完成。ブランド『ATHVIA(アスウィア)』を立ち上げ、今回のクラウドファンディングに至っている。

ATHVIAのブランドロゴ。「ATHVIA」は「アスリート」とラテン語で「道」を表す「VIA」と組み合わせた言葉で、挑戦し続ける人の生き方を表しているという。キャンプファイアのクラファンページより抜粋。以下同。

「クラウドファンディングをするのは、資金を集めるというよりは、まずたくさんの人に知ってもらいたいという思いからなんです。

僕もジビエを始めるにあたって、農業や林業の鳥獣被害のことを知りましたし、社会課題を解決するという意味合いがあることは承知しています。でも、それよりもまずは『美味しさ』を知ってもらうことが先かなと思いました。いまだにジビエを食べたことのない人もいますし、ジビエは固い、臭いと思っている人も少なくありません。

そういう人たちに、作ったジャーキーとソーセージを食べてもらいたい。本当に美味しいんですよ。スーパーにこういう商品が普通に並んで、日常的にジビエを食べられるようになるのが、大きな目標ですね」

Instaライブでも、ジビエにまつわる社会課題についてはほとんど触れず、美味しさや栄養価の高さを熱心にアピール姿が印象的だった。

ジャーキー、ソーセージともにお酒のつまみとしても最高。「体重管理の意味で、アスリートがお酒を飲むときに一番気を使うのがおつまみ」だそうで、その点、低脂質、高タンパクの鹿は安心して食べられる。「日本酒にも合いますよ」と橋本さん。また、ソーセージは補食や間食で食べることを考えて加熱せずにそのままでも食べられる(「とはいえ加熱したほうが美味しい」とも)。

まずはECでの販売からスタートし、イベントやポップアップショップでの販売、toBの展開も予定しているという。

アスリートのデュアル/セカンドキャリア問題にも切り込みたい

橋本さんが「ジビエに挑戦」を広くアピールしているのは、アスリートのデュアル/セカンドキャリアの問題も考えてのことだ。

「バスケをはじめ、日本のプロスポーツの多くは、選手間の貧富の格差が大きく、収入の少ない選手は生活に不安を抱えながらプレイしているという現実があります。安心してプレイするために、デュアルキャリアとしてもうひとつキャッシュポイントを持つことはとても重要だと思うんです。

セカンドキャリアにも問題があります。クラブチームは支援すると言いつつも、実際にはなかなか十分な支援ができないのが現状です。引退した選手が指導者になることさえ稀で、ほとんどが社会人1年生としてまったく関係のない仕事をすることになるんです。社会に出ることが怖いという選手もいるくらいです。

僕はこういう状況に一石を投じたい。

アスリートのセカンドキャリアとして、僕みたいな人間でも、こんなことができると示したい。アスリートの価値を示したい。それができれば、他の選手たちにとっても励みになるでしょうし、別の道のあり方を示すことができるんじゃないかと思います」

しかし、「アスリートの価値」とは何だろうか。

現役時の橋本選手

「正直に言えば、それはまだ分かりません。やりながら模索していくものだと考えています。

もちろん、ファンがついていてくれて、Instaライブやイベントをやりますといえばすぐ100人くらいは集まってくれます。これはアスリートならではの価値かもしれません。とてもありがたいことですが、それで勝負しようとは思っていません。もっと他にもあるだろうと思うんです。事業をしながら、それを模索したい」

アスリートとは「生き方」なのかもしれない

橋本さんがセカンドキャリアとして最初に取り組もうと考えたのは、実は野菜のスムージーだったという。「農家を営む実家や故郷の愛媛県を盛り上げたい」という思いからだった。スムージーはコストがかさむために一旦保留しているが、これを諦めたわけではない。

当面はジビエ事業を中心にしていくが「軸はぶらさずにやっていきたい」と橋本さんは話す。

その軸とは「土いじりが好き」「自然由来のものを大事にする」「まちおこし」「愛媛を応援する」という4点だ。ジビエも降って湧いたようなものではなく、もともと考えていた軸に、ぴたりとハマったということなのだろう。

また、インタビューの合間に、橋本さんはしばしば「ワクワクすることをやりたい」と話していた。今は鹿だけだが、イノシシの製品も作りたいという。いずれは狩猟免許を取り、捕獲の現場にも出たい。やりたいことはたくさんある。ジビエの先にもたくさんの「ワクワク」がある。

橋本さんは、アスリートとは「夢と勇気、感動を伝えるものだ」と話していた。だとしたら、ジビエに挑戦することも、そのワクワクを伝えることもまた、アスリートの仕事であるのだろう。その意味で、アスリートとは職業ではなく、生きる姿勢、生き方そのものなのかもしれない。インタビューを終えたとき、やはり「橋本さん」ではなく「橋本選手」と呼びたいと強く思った。

キャンプファイア 「ジビエ・鹿肉の力で社会と未来のアスリートの力になりたい。橋本尚明の新たな挑戦」