世界の中の日本のジビエを考える

ジビエ界隈ではよく知られたことだが、今、日本のジビエを食べるために訪れる海外の観光客の間で一番人気だと言われているのが、表参道のフレンチ「LATURE」(ラチュレ)だ。

オーナーシェフの室田氏によると、和牛も寿司も海外に進出してきており、「日本に来なきゃ食べられないものはジビエくらいしかない」のだという。比較的アジア系の観光客が多いそうだ。

そのLATUREが、日本と同じように鹿の被害で悩むハワイでもっとも予約のとれないレストラン「SENIA」(セニア)とコラボイベントを開催するという(3月29、30日の2日間)。シェフはアンソニー・ラッシュ氏。SENIA本店でも、鹿の命を無駄にすることなく、美味しく提供することに努めているという。

ハワイの鹿は、南アジア原産の「アクシスジカ」だ。19世紀中頃にハワイ諸島に持ち込まれ、現在モロカイ島で7万頭、マウイ島では5~6万頭と推計されている。ニホンジカに比べるとやや大きい、美しい姿の鹿だ(ニホンジカも地域によって異なるが)。

SENIAではどんな料理で提供されているのかも気になるが、同時に、アンソニー・ラッシュシェフが、どのようにニホンジカを料理するのかも興味深い。

というのも、ニホンジカは海外の鹿とは肉質や風味が異なるからだ。以前、ドイツのメディアで「ニホンジカの肉は柔かく、繊細だ」と書いているものを目にしたことがある。欧米で食べられているアカシカ、オジロジカは大柄で、肉質も味もがっしりしている印象がある。エゾジカもこれに近い。処理の違いもあるだろう。日本のジビエ処理技術が向上していることもあって、海外から輸入されるジビエは「総じて血抜きが良くない」とこぼす日本の料理人もいる。海外のシェフが、ニホンジカをどう判断し、どう調理するか。そしてどう評価するか。これは、日本ジビエを海外に向けて売り出す試金石のひとつになるのではないだろうか。

折しも、代々木の飲食店「小料理よし田」が、ジビエをメインのひとつに据えた「プレミアムインバウンドツアー」を開始した。主に台湾等中華圏を対象にした情報サイト「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」を運営するジーリーメディアグループが経営する飲食店だ。こちらでは千葉のジビエを使ったメニューを、日本酒と合わせて提供する。

仄聞するところによると、インバウンドの材料にジビエを取り込もうとしている地域・都市もある。日本ジビエを海外へ輸出しようとする動きもあると聞く。海外でも鳥獣被害に悩み、ジビエ利活用を推進する動きが始まっている今、ただ「日本のジビエです」と売るだけでなく、その特徴や美味しさをきちんと差異化、言語化していかなければリーチしないだろう。また、フレンチ、イタリアンそのままではなく、和食、日本酒との組み合わせ、日本独特の食材とのマッチングなど、日本なりのジビエの食べ方を打ち出していく必要もあるのではないだろうか。今後、海外を視野に入れたジビエの取り組みが増えると、日本のジビエの景色も変わってくるのかもしれない。

<参考>ハワイの鹿事情
1867年、モロカイ島にアクシスジカが持ち込まれ、繁殖。その後、1959年になってマウイ島に移入され大繁殖し、問題化した。主に生態系と家畜への影響が懸念されている。ハワイ本島には何者かが放ち、2011年に数頭初確認されたが、その後厳しく監視が続けられており、大きな繁殖には至っていないようだ。現在、推定でモロカイ島には7万頭、マウイ島には5~6万頭が生息しているとされている。

2015年には「Maui Nui Venison」が設立され、鹿の食肉利用事業化が進められている。2022年、鹿の繁殖を抑制するため年間処理量1万5000頭の目標を掲げた。ちなみにMaui Nui Venisonは、トレーラータイプの移動式処理施設の運用、鹿のストレス軽減のための夜間狩猟などでもよく知られている。

※冒頭の写真は、「小料理よし田」のリリースより。