アルゼンチン同様、中国本土でもイノシシ被害が拡大しており、連日メディアを賑わせている。
香港の海洋公園で観光客が残したハンバーガーを漁るイノシシの写真はショックを与えた。10月末には浙江省建徳市で市民を負傷させる事故(25日)、南京で列車を止め整備士を死に至らしめる事故(27日)、4つ星ホテルに侵入(27日)、そして雲南省では崖から6頭のイノシシが落下してくるという事故(27日)が起きている。最後のは嘘のようだが本当の話だ。
報道によると、中国の28省(一級行政区の数は32)で約200万頭のイノシシが生息していると推定されており、そのうち26省で傷害等の事故が起きているという。
中国の国家林業草地局(日本の林野庁にあたる)は、2023年6月「生態学的、科学的、社会的価値が重要な陸上野生動物のリスト」からイノシシを除外し、2024年1月にはイノシシの狩猟・捕獲には狩猟免許不要という措置もとっている。また、公安部と連携で最適な狩猟・捕獲が行われるための措置を進めていると発表した。さらに、個体管理の実証事業も行っている地域もあるという。
にもかかわらずイノシシの被害が増大している理由について、星島網は4つの理由があると指摘している。
まず管理方法が後進的であること。檻や網などで捕獲しており非効率である。第二に食用など利用できないために狩猟捕獲への熱意がわかないこと、第三に狩猟捕獲への経済的保証がないこと、第四に、関係機関や狩猟チームが機能していないことが挙げられる。
虎嗅网は、特に南京市で被害が大きいことについて、南京市の面積が小さく、周辺に設定された環境保全のための「生態保護レッドライン」も非常に小さいこと、そして南京の生態学的地域が周辺から孤立していることが原因ではないかとし、イノシシが行き来できる「生物学的回廊」を設定する必要があると報じている。
こうした状況を踏まえ、一部の専門家は衛生的な処理をすることを前提に、野生イノシシを食用利用・販売できるよう法改正すべきと提案しているという。騰訊網の記事では、広東省科学院動物研究所の研究者で、中国動物学会理事の胡輝健氏のコメントを紹介しており、食用利用の可能性を指摘している。
狩猟の費用は高いうえ、(怪我等の)リスクも高い。イノシシは法で食用禁止とされており、狩猟後に販売することもできない。この一連の問題は個人の狩猟を抑制しており、政府は何もしていない。……胡輝堅氏は、食用のイノシシを禁止するというやや後進的な規制を再検討し、動物の利用に関する政策を合理的に検討することが重要であると述べた。
中国では日本人が思うほど野生動物を食べていない。筆者が北京から来た大学生と会話した際、日本では鹿、イノシシを食べている、利用を促進していると話したところ、非常に驚かれたことがある。今後、イノシシの食用利用がどのように変わっていくのか引き続き注視したい。
※トップの写真は東網の記事のキャプチャ