ジビエは健康に悪い??

ドイツは欧州でもジビエの消費量が多い国だと言われている。欧州全体に共通する狩猟への反感、動物愛護からのジビエ批判はドイツでも同様ではあるが、年間2万トンを消費しており、狩猟免許取得者も年々増えている。

ドイツ狩猟協会(Deutscher Jagdverband。DJV)の統計によると、2023年には1万7100トンのドイツ産ジビエが消費された。これは「1億3140万個のワイルドバーガーに相当し、ドイツでは一人当たり1.5個に相当」するのだという。

2022-23の狩猟シーズンで食べられたジビエ。半数をイノシシが占める。2024年1月発表のDJVの統計より。

また、同じDVJの調査でドイツ国民の84%がジビエは健康的だと考えているそうだ。しかし、その一方で、健康リスクを主張する声も少なくない。

ドイツのフィットネス雑誌『FIT BOOK』のウェブサイトに11月5日に掲載された、栄養学の専門家による記事 “Wie gesund ist der Verzehr von Wildfleisch?(野生の肉を食べることはどれくらい健康に良いのでしょうか?)”では、低脂質、低カロリー、高タンパク、鉄分や亜鉛が豊富だというジビエの栄養面での利点は認めつつも、「ただし」と以下の点に気をつけるよう述べている。

・ジビエに多い赤身肉は発がんリスクが高い
・鉛の摂取リスクがある
・放射能汚染のリスクがある

赤身肉の発がんリスクはジビエに限ったことではないが、ジビエは特に赤身が多いことからの指摘だろう。記事ではWHOの報告のほか、同誌で行われたリサーチ結果などから赤身肉のリスクを主張している。

鉛はドイツ国内の狩猟のほぼ100%が銃猟だからだ。タマジカなどの牧場もあるが、そこでの止め刺しも銃で行われているという。ドイツのPETAは、ドイツ国内のジビエソーセージの3/4から鉛が検出されたと主張している(PETA=People for the Ethical Treatment of Animals。動物の倫理的扱いを求める人々の会)。ちなみに欧米では罠猟は残酷だとして忌避されている(とはいえ最近はアライグマなどの小型獣の捕獲で使われることも増えているようだ。そしてそれを通報する人も)。

1986 年のセシウム 137 土壌汚染(1 平方メートルあたりのベクレル)。ドイツ連邦放射線防護局のサイトより。

放射能は、1986年のチェルノブイリ原発事故に由来するものだが、ドイツ南部のイノシシから検出される放射能が、実は1960年代の核実験にも由来しているという論文が2023年に発表され話題を呼んだ。ドイツ産イノシシ肉のほとんどが北部から来ているのはそのためかもしれない。あちこちのドイツ語のジビエ関連サイトで、「ジビエを買うときには産地に注意」と書いてあるのも納得だ。

調べると、同様の主張をしているドイツのウェブサイトが散見される。一方、ドイツほどではないにはしても、イノシシ、シカを食べているイタリア、スペインなどではこの種の発言はあまり見られない。東欧については今後さらにリサーチをしていきたい。

また、この記事は「ワイルドはオーガニックではない」と締めくくられている。これは「オーガニック」という用語がEUの有機規制で定義されているからではあるが、むやみにジビエを称賛しすぎるべきではないという意味において示唆的だ。日本でも幅広いジビエの議論が望まれる。