2月14日、農林水産省で「令和6年度鳥獣対策優良活動表彰」の表彰式、第12回全国鳥獣被害対策サミットが開催された。サミットは、第一部を表彰事例の取り組み報告とし、第二部は講演会およびパネルディスカッションを行った。
地域の解像度が高かった受賞者
令和6年度鳥獣対策優良活動表彰の受賞者は以下の通り。
【被害防止部門】
<農林水産大臣賞>
・下関市豊北町大字田耕「朝生地区」
<農村振興局長賞>
・郡山市田村町田母神集落
・福井市神当部区
・坂本自治会「サル追い出し隊」
【捕獲鳥獣利活用部門】
<農林水産大臣賞>
・株式会社ART CUBE
<農村振興局長賞>
・本川哲代(個人)
・株式会社メルセン
・ジビエ工房やまと
今年度の被害防止部門の受賞については、いずれも「地域」の解像度が高い点が印象的だった。本表彰は、地域一体となった被害対策を顕彰するもので、設立以来一貫して「地域」「住民主体」がキーワードであることに変わりはないが、今年は活動主体がより鮮明になっていたと言える。
例えば農林水産大臣賞を受賞した下関市豊北町大字田耕「朝生地区」は、地域でプロジェクトチームを立ち上げ、県・市と連携し地区独自の鳥獣被害対策総合計画を策定・活動しているが、そのチームは農事組合法人朝生地区と朝生自治会によって構成されている。これまでは、熱意のある活動者が周囲を牽引していくパターンが多かったが、具体的な地域住民の全員が活動主体になっている。鳥獣対策に携わる人々が地域の隅々まで行き届いている、とも言えるかもしれない。
被害防止部門の受賞地域それぞれに受賞理由はあるが、他にも共通しているものに、住民(活動主体)間の情報共有、外部活力の利用、学術的な知見、ICTの活用などがあった。
捕獲鳥獣利活用部門では、ART CUBEの垣内氏が農林水産大臣賞を受賞した。ジビエ利活用の草分け的存在であり、捕獲・処理・販売等、今も意欲的に新しい活動を展開している。満を持しての受賞といったところだろう。

同部門では、今回、個人で受賞した本川哲代氏の発言が際立っていたように思う。氏は北海道むかわ町で施設「むかわのジビエ」を設立し、利活用に取り組んでいるが、欧州では一般的な「アニマルウェルフェア」「狩猟倫理」に則って野生鳥獣と向き合い、食べ、利用していこうとしている。
その姿勢はジビエに関わる人々なら当たり前のことだが、言葉にするのは難しい。本川氏はそれを「人に褒められなくてもいい、鹿に褒められる処理場を目指したい」「料理人に出す鹿肉は、“里子に出す”と呼んでいる」「ものとして殺すのではなく、鹿たちの声を聞ける“屠り人”(ほふりひと)になりたい」と、分かりやすく、動物の側の目線に立って表現している。軽々しく「人間も自然の一部」「生命の循環」等、大きな言葉で語らないところが、地に足がついたものとして伝わってくる。
また、捕獲・止め刺し後の鹿の状態をトレースするための研究にも協力している点も評価したい。
ジビエでもようやく、PSE肉(フケ肉)やDFD肉についての理解も広がってきているが、どのような捕獲、止め刺し、放血方法が最適・最良なのかという点については、いまだ統一的な知見はない。「野生だから」「個体差が大きいから」で放置しておいて良い問題なのか。今後、統合的な研究が期待されるところであり、本川氏のような研究への協力は、他の施設にも広まっていくことが期待される。
第二部、キーワードは「転換点」

サミット第二部として、全国の被害対策の事例紹介およびパネルディスカッションが行われた。
テーマは「獣害対策の『転換点』」。コーディネーターを務めた山端直人氏(兵庫県立大学自然・環境科学研究所教授)は、テーマについてこう述べている。
「どんな地域でも、被害が続いている状況から、防止の成功に転じる転換点があったはず。そこを学びたい。獣害に強い集落にするには、実は定型化されたパターンがあるのではないか。強いリーダー、カリスマがいなければできないというものでもないはずだ。つまり、政策に落とし込んで、実施し成功することができるものだ。ぜひ学び、真似をして取り入れていってほしい」(山端氏)
獣害対策は、地域差や状況や背景の違いなどがあり、同一の条件で再現が可能な「科学」とは言い難い。しかし、成功に転じた「転換点」すなわちきっかけとなる何らかの事象や事例を学ぶことで、再現性を高めていくことはできると山端氏は言う。
講演順にその転換点を列挙すると次のようになる。
基調講演「大町市における獣害対策のための取り組みと集落の連携について」
長野県大町市役所農林水産課 傳刀章雄氏
<転換点>ICTの導入
令和2年、GPS機器による生態調査を導入。ビーコンによるテレメトリー調査よりも高精細な分布、行動調査が可能になり、被害や行動予測を可視化することもできた。情報共有も容易になり関係者とのコミュニケーションも深まった。それに伴い、防除・捕獲の効率も向上した。
取り組み事例の紹介
「支援者からみた獣害対策の転換点」
東北野生動物保険管理センター代表 宇野壮春氏
<転換点>知識
同センターは野生動物の保護管理、有害鳥獣対策支援を業務とする企業。自治体の依頼に基づき生息・生態調査などを行うが、同時に防除・捕獲の体制構築支援なども手掛ける。「人」「伝達」「状況変化」「危機感」など転換点となるファクターはさまざまあるが、共通しているのは「知識」だとしている。思いのほか地域では鳥獣害、防除、捕獲について正しい知識が普及していないという。
「山形市風間地区における有害鳥獣対策のための取り組みと地域民の連携について」
風間地区有害鳥獣対策協議会事務局 梅津茂氏
<転換点>近隣の成功例を知ったこと
隣の高瀬地区が防除に成功しており、「あそこにできてうちにできないわけがない」「まずは見に行こう」と発奮したことが大きなきっかけとなったという。他、被害を知ること、暗視カメラで撮影し、イノシシがどのように行動するかを学んだことも前進する要因となった。総じて「知る」ことの重要性を指摘している。
「集落営農で取り組む獣害対策」
農事組合法人 ファーム・円心 代表理事 河野雅晴氏
<転換点>防除の成功
兵庫県上郡町の赤松地域では、農事組合法人と住民組織による“2階建て”の獣害対策に取り組んでいる。「やらなアカン」と誰もが思っていたものの広まらずにいたが、一部で実施した防除によって、被害面積が1.5haから10aと大幅に減少したことによって、「できるんだ」という意識の変化が生まれ、やりがいも感じるようになったという。他にも、専門的知識、外部の専門家なども有効だったとしている。
パネルディスカッションでは、それぞれの転換点を深堀りし理解を深めたほか、転換点となり得るその他の要素を議論し、情報共有、可視化、行政による支援などが挙げられた。
こうした「転換点」をさらに俯瞰して見ると、「獣害に強い集落づくり」とは、住民の意識改革と参加を促すものであり、地域の活性化それ自体でもあると言える。獣害対策を通して、地域住民のコミュニケーションが増加し、結束も強まる。ジビエ等利活用も行われれば、経済活動も伴うようになるかもしれない。共同の活動も行われる。地方によっては共有地の草刈りすらままならないこともある今、獣害対策は、マイナスをゼロに戻すだけでなく、地域に大きなプラスをもたらすものにもなり得る。これを「地域の再構成」と呼ぶのは言い過ぎだろうか。
特にオンラインの参加者は地方の自治体関係者が多かったようだ。今後、どのように獣害対策を通じて地域の活力が増していくのか、引き続き地方に注視していきたい。
三菱電機、モンスターウルフ――注目の展示
サミットと並行し、鳥獣対策に係る展示も行われた。センシング等のIT関連、ドローン、アプリ、利活用など幅広い出展が約30社。
今回、個人的には三菱電機が出展していたことに注目したい。識別AI、忌避の超音波に独自技術があり、センシング、調査、防除、捕獲、人材育成のトータルソリューションを提供。地域課題解決に寄与したいとしている。2023年11月から宮崎県延岡市で実証実験を行っており、今後自治体との連携を増やしていく予定だという。北海道支社が大きくコミットしているようだが、本社事業としての取り組みとのことで、どこまで“本気”の事業化に取り組もうとするのか、興味深い。

また、何かと話題になった「モンスターウルフ」も出展していたので、気になっていた点を聞いてみた。回答はウルフ・カムイの代表取締役社長の宮坂元博氏。
――福井県南越前町での実証実験ではどのような結果が得られたのか。
「移動することができるかを検証した。9月から雪が降るまで実施し、固定設置だけでなく移動タイプの可能性も確認できた」
――光、音、匂いなどによる忌避は、最初は効果があっても、動物が慣れてしまって長く続かないと聞くが。
「確かに、特に鹿は慣れるのが早い。一方、熊にはよく効いていると言える。モンスターウルフは、導入すれば完璧に防ぐというものではなく、あくまでも被害を低減するものだと理解してほしい。設置の仕方、定期的な設置場所変更など、活用にはコツがある。そこも含め、導入の際には丁寧にアドバイスをしている。これまで250台の販売実績があり、長く利用してもらっている。レンタルはのべ50台になり、リピート率も高い。適切に使用すれば効果は期待できると思う」
――海外からの問い合わせも増えていると報じられていた。
「イタリアからイノシシ防除で問い合わせがあったが、移送費用が高くなってしまうため、導入にまでは至っていない。代理店がなければ輸出は難しい。今は現地の代理店を探しているところだ。変わったところでは、日本の関連機関から、インドでのゾウ対策で使えないかという相談もあった」
他、一部で熱心なファンがいるという、ジビエソープも出展していた。イノシシの脂を使ったソープ、クリームを製造販売する同社。イノシシの脂は人間の脂に非常に近いため、合う人には“本当に合う”ということで熱心なリピーターを獲得しているという。実は現在、犬用のシャンプーを開発中とのこと。今夏には販売を開始したいとしている。
ジビエ、皮革などの利活用は、決して鳥獣被害対策の一丁目一番地ではないが、地域活性化のシンボルとして活用することもできる。若年層、ベンチャーの参入が期待できる領域で、参入企業も増えている印象だ。